悪戯の代償
Presenter:sarah
Summary:エメアゼ/小説
Presenter:sarah
Summary:エメアゼ/小説
――どうしてこんなことに。
香るのは、彼の纏う大好きな匂い。視界に映るのは、闇の中で輝く金色の瞳。わたしの身体は、まるで魔法にかけられたみたいに言うことを聞かない。
「ッん、ふ、ぅう……っ」
重なった唇を甘噛みされて、ピリリと走った傷みに思わず声を漏らす。同時にびくりと腰を跳ねさせると、下腹部に固いものの存在を感じて思わずぎゅっと目を閉じた。わたしを組み敷いている恋人が喉の奥で低い笑いを漏らしたのがわかって、恥ずかしさと情けなさとで泣きそうになる。
「なんだ。厭がっているわりに、随分とやる気じゃないか」
「ん……ッエメトセルク、だめ」
「ならば魔法でも何でも使って、私を拒絶すればいいだろう?」
なぁ、アゼム。
そう囁いた彼は、わたしのローブの裾をたくし上げながら妖艶に笑む。わたしがそんなことをするはずがないと、わかりきっているような表情で。
「あ……っ」
下着の編み紐がするりと緩められると、ローブと共にずらされるまで一瞬だった。剥き出しになった胸の蕾をくにくにと弾かれながら、舌を絡ませ深いキスを交わす。大きく開かされた脚の間にぐりぐりと押しつけられる剛直は、存在感を増していく。
気持ちが良くて、なのに足りなくて、もっと続きをしてほしくて――
そんなわたしの欲望を満たすかのように、エメトセルクの指先が腹を這う。ショーツの布を撫で、内股を伝って……しかし浅ましく潤った場所に触れることなく遠ざかっていった。
「やっ……なんで」
落胆を隠そうともしないで抗議の声を上げると、彼はどこまでも意地悪な笑みを浮かべてわたしの脚を撫で回し始める。
「『だめ』なのだろう?」
「――ッ」
「ああ、わかっているとも。こんな場所でいたすのは、先人への冒涜だ」
エメトセルクは、しかし台詞とは裏腹に、わたしの胸元に顔を埋め肌に舌を這わせるのをやめない。無防備な肉にやんわりと歯を立てられると、そこからびりびりと電流のような刺激が全身を駆け巡ったような気がした。
そうだ、わかっている。ここはカピトル議事堂。街の灯りだけが差し込む薄暗い執務室で、固いデスクに背中を押し付けられ、悦んでいる場合ではないのだ。
それなのに、何度も何度も彼に可愛がられてきたわたしの身体は、状況などお構いなしに反応している。
「お前の期待を裏切るのは大変、とても、非常に心苦しいが、今夜はここまでにしておくとしよう。真面目で仕事熱心な『アゼム様』なら、ご理解いただけるはず」
見たことがないほどの爽やかかつ満面の笑みを浮かべわたしを見下ろす彼は、やはり怒っているらしい。なんとか言い訳をしなければならない。
事の発端は、今朝のこと。
目を覚ました瞬間、あどけない寝顔で眠る彼の銀色をした長い睫毛が、陽の光に照らされてきらきらしているのが目に入った。まるで宝物を見つけたような気がして、もっと近くで見つめてみたくなって覗き込んだら、いつもぎゅっと寄せられている眉間の皺が和らいだ。そうして、赤く薄い唇がふわりと掠れた声を漏らしたのだ――アゼム、と。
そんなの、なんとも言えない衝動を抑えきれなくなってしまっても仕方がない。ちゅ、と音を立てて繰り返し唇を啄みながら、彼の纏う寝衣の中に指先を滑らせた。彫刻みたいに引き締まった筋肉の窪みをなぞり、髪と同じ色をした茂みをかき分けて、生理的な現象で半分だけ元気になったモノにそっと触れた。びくりと反応したそれは一瞬で雁首をもたげて――だけど、彼はまだ目を覚まさない。
それからは『悪戯』に夢中になった。寝衣をはだけさせ、首筋を舐めて胸元へ移動し、固く主張した胸の蕾を舌で転がした。そうしながら左手で彼の身体をまさぐり、右手で怒張を緩く扱く。彼が目を覚ましてしまうかもしれないという緊張と、わたしは何と下品なことをしているんだろうという背徳感とがぞくぞくと背中を走っていく。彼が時折漏らす甘い呻き声と吐息は聴覚を支配し、熱っぽく蕩けていく表情が視覚を支配した。
――あぁ、エメトセルク。だいすき。だいすき。
そんな感情に浮かされながら、ついに楔を口に含んだときだ。『おい、アゼム……』と掠れた声が降ってくると共に、髪をするりと撫でられたのは。
我に返って飛び上がるように顔を上げると、やや困惑した表情の彼がじっとわたしを見つめていた。
恥ずかしい。恥ずかしい。怒られるにきまってる。今度こそ嫌われちゃう!
ショートした思考回路が背中を突き飛ばした。咄嗟に転移魔法を唱え、十四人委員会の執務室――つまり、この部屋――に逃げ出したのだ。彼の言葉を聞く前に。
そのあとは、仮眠室で身支度を整え、何事もなかったかのように一日の仕事をこなした。アーモロート滞在中のわたしの仕事はというとデスクワークがほとんどで、執務室の外に出る必要もなかったから、エメトセルクとは顔を合わせずに済んだ。だけど家に帰るのも気が引けて、今日中というわけでもない執務をだらだら続けているうちに夜になった。そうして議事堂に誰もいなくなった頃、彼が姿を現したのだ。
謝らなくちゃ。寝込みを襲ったこと、なのに彼を放置して逃げたこと、今日一日避けていたこと。上げればキリがない。ちゃんと許してもらって、仲直りしなくちゃ。
「……ハーデス……」
彼の柔らかな髪に指を通し、ぽつりと真名を呟く。乞うようにぺろりと彼の赤い舌を舐めると、闇の中に佇む蜜色の瞳が揺れた。
「今朝は、ごめんなさい」
「……」
「もう二度とあんなことしないから、怒らないで」
懺悔の言葉を口にしながら腰を揺らして硬いモノに擦り付ければ、とろりと垂れた蜜がショーツを濡らしたのを感じた。確かな快楽を拾いながら、首に回した腕で彼を抱き寄せ、深く唇を重ね舌を絡ませる。
エメトセルクは、しばらく黙ったままわたしの挙動を見守っていたのだけれど、やがて観念したようにため息を吐くと、キスの主導権を奪い取った。そうしながら再び胸を刺激され、更に陰核を撫でられてしまえば、彼に躾けられたわたしに為す術などない。
「んっ……ふ、あぁ」
「――二度とするな、とは言っていない」
「じゃあまた、してもいい……?」
「ああ。逃げなければな」
「ぁあんっ」
エメトセルクはやや強引にショーツをずらすと、そのまま節くれだった指で膣内を暴いていく。とろけるような感覚に、彼の首へ腕を回してしがみつく。
「ほんと、は……っはぁ」
「本当は?」
「ほんとは――ッあぁ! ……今朝も、こうされたかったの」
彼の指が出入りするたび、くちゅくちゅと響く水音は間違いなくわたしの秘部が立てる音。そこから湧き上がる熱に溺れて、潤んでいく視界に映っているのは、まっすぐにわたしの顔を見下ろす大好きな人の瞳。
もっと……もっと、犯してほしい。境界線が溶け合ってしまうくらい強く抱き潰して、骨の髄まできみのものにして。
とうとう我慢できなくなって、自由の利く脚を彼の腰に絡ませる。そのままきゅっと抱き寄せ、彼が纏う上衣のエーテルを解いていく。ローブの上からじゃ決してわからない、鎧のような筋肉にうっとりと目を細めながら、もっと欲しいととろけた場所を擦り付けた。
「は……、いいのか、アゼム」
「んっ! あぁ、あっ」
「挿れてしまうぞ」
耳元で囁いた彼の喉の奥が獣のように唸っていた。わたしの頬を撫でる指先も、抱き締めてくれた火照った身体も、性急に下衣をくつろげる動作も、すべてがわたしに欲情している。
「はやく、ちょうだい……ッあぁあ――!!」
ぐいと両脚を抱えられたと思った時には、深く深く、奥まで一気に貫かれていた。信じられない質量のものが胎に埋まっているのを感じて、それが大好きな人のモノなのだという現実が理解できると、歓喜と興奮に満たされていく。今朝、自分で自分を生殺しにしたことも相まって、どうしようもない快楽の波が襲ってくる。
だってわたしは今、こんな場所で、服もろくに脱がないで、エメトセルクとまぐわっているのだ。
「きもちぃ……ッあぁ! そこ、いいの――はぁ」
「ん……」
「あ、エメトセルク――ッ、あん、すき……すきぃ、もっと」
「――ッ」
「おくまでして、わたしのなかにいっぱいだして」
「……この、淫乱が」
怒ったような表情とは裏腹に、胎内の楔がどくんと脈打って大きくなったから。無我夢中で腰を振る恋人を力いっぱい抱き締めて、精一杯のキスを贈った。
END