くいしんぼう猫のレシピ
Presenter:作者の回答を見る!(7/28 15時~)
Summary:エメアゼ♀
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引いた小麦、水とちょびっとの塩で捏ねて。スカンピと、あと、そうだなあ...イカとタコと、チーズたくさん!
歌うように口ずさみ、うきうきと歩くのは、背格好から見覚えのある人物。背の高い建物が立ち並ぶ街の、生活区域へ向かう道。両手一杯の荷物で前が見えなくなっているのに、口々に声をかけられ、しかしぶつかることなくクルクルと立ち回り、踊るような足取り。
「アゼム様、何の材料ですか?」
「今日は何かあるのですか?アゼム様」
彼女はご機嫌で、しかし守秘義務があることをアピールする。
「えへへ、さーてねっ!」
そう言うと、歌の続きだ。
真っ赤なトマトが待っているよ。ワインは香り高く、胸がドキドキ、オリーブにサーモン詰めちゃえ!あと、えっと、それから...
さて、守秘義務、だって?彼女が守れたかどうかなんて、ご覧の有り様である。
「コホン、ごきげんよう!ワインもいいけど、ブランデーは如何ですか?ご婦人!」
「へ?ごふじん...ぅわあっ、落ちちゃうって!」
「おっと、これはお手製のリモンチェッロ?」
咄嗟に手を出したワタシから、アゼムはリモンチェッロの瓶を受け取ろうとしたが...両手が塞がっていた。
「...なんだぁ、ヒュトロダエウスか。ビックリしちゃったじゃん」
アゼムは、自分の手足やローブ、荷物の隙間に、瓶の入る余地を探して、目を泳がせる。
無理だと思うなあ。魔法で浮かせれば、あるいは...?
いやいや、彼女の器用さを侮るなかれ。それではご機嫌な鼻唄を止めることになってしまう。
「お持ちしますよ、アゼム様」
ありがと!と、そのあと間を置かずにこう聞いた。
「ブランデー、あるの?」
「え?...ちゃんと聴こえてたんだね!うん、こないだ、あの地方出身らしいうちの職員から、たまたま分けて貰えてね。夜にお邪魔するときに持っていくよ。」
「やった、楽しみにしてる!」
きっと喜ぶね、彼!
ふたつ前の任務で、アゼムと、もうひとりの親友ハーデスと3人で立ち寄った街で、彼が透明で芳醇な薫りのお酒をいたく気に入ったのを覚えていた。見た目は水のようでいて、その実とても強い酒を、ちびちびとやってボトルを空けてしまった。翌日に多少なりとも影響を受けたほどだった...あのハーデスが!
アゼムは、ワタシの記憶力の良さを存分に褒めて、路肩に一度荷物を置いて整え、丁寧に食材の間にリモンチェロの瓶を沈めた。「よし!」
荷物を確認すると、じゃあまた暗くなったらね!と、そびえ立つビルの街並みをするりと抜けていった。
「猫みたいだなあ。」
「...誰が、猫だって?」
不意に、低めのよく知る声がして振り返る。いや、実際は、暫く前から視えていたのだけれど。
「ハーデス、居たのなら手伝ってあげればいいのに」
「困っているようならそうしたが...」
遠目からも、相変わらず住人に切れ目なく話しかけられているアゼムが見える。その様子は、楽しくてしょうがないという様子だ。
「あいつが帰ってきたときにしか、あの...ばかに陽気な歌を聴けないからな、ここの住人は」
「ああ...確かにそうだね!」
その光景を、なんだか誇らしそうな、友愛の込もった表情で眺めている彼を見て、ワタシもなんだか胸のあたりが温かくなってしまう。フフフ、ハーデスったら。
「...なんだ?文句でもあるか。さあ、あいつが着くまでに陽が暮れそうだが、どうかな」
さて、今夜のパーティーのメニューは?
この街の人達には、もう知られちゃっただろうね。
毎度勝手に会場にされるお宅の住人は、迷惑そうな顔をしながらもピザ窯を用意して待ってくれてるだろう。
ワタシはブランデーと幾つかのフルーツを手に、親友達の待つ家へと歩いていった。