アゼムの日記帳
Presenter:作者の回答を見る!(7/28 15時~)
Summary:エメアゼ♀
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アゼムがいつものように旅に出ている隙にヒュトロダエウスが悪びれもなく部屋を物色し始める。
「ねぇ、エメトセルクは知っているかい?」
突然何かと思いヒュトロダエウスを見ると一冊のノートと思われる物を手にしこちらへ掲げていた。
「なんだ…それは…」
何の変哲もないノートのように見える。
ヒュトロダエウスは顔を綻ばせながら何ページかパラパラと捲っていた。
「おいおい、いちをそれはアゼムの物だ。許可なく見るのは失礼だぞ。」
恋仲であれど個々は尊重するのが普通の在るべき姿であると思っていた。
勝手に人の物を物色し覗き見るのは言語道断だ。
「本当に見られて困るようなものはこんな分かりやすい所には置かないよ。」
それもそうだと思ってしまうが、だからと言って許可なく見ていい物でもない。
「それに…とても面白そうなことが書いてありそうだ。」
その瞳はキラキラと輝き、早く読みたいと私に訴えかける。
「…まったくお前は…私は何も知らないし、何も見ていない。」
そう言うとヒュトロダエウスはクスクスと笑い、ノートをペラリと捲った。
熟読しているのかヒュトロダエウスは大人しくただページを捲る音だけが響き渡る。
そんなにも惹き込まれるような内容だったのだろうか。
近頃のアゼムを思い返す。
特に何らかの研究や論文に時間を掛けていた素振りはなかった。
では他に何があると言うのだ…
「気になるんでしょ?」
ふいに声を掛けられドキッとしてしまう。
「…まぁ、お前がそこまで熱心に読んでいる様を見ると…な。」
正直に答えるとヒュトロダエウスはにこやかに笑う。
「そうだね…これは、アゼムの日記帳のようだよ。」
日記帳…わざわざノートに書き記すほどなのか…?
普通は簡単なイデアを創造し、そこに書き記し記録として残す。
それが当たり前だと思っていた。
「アゼムらしいじゃない?記録として残すよりカタチにし記憶として残したい。それも自分だけではなく他者とも共有出来るように。」
だとしても…だ。
「アイツだってまさかこんな形で他人に見られるとは思ってないだろう。」
親友に自分が不在の時に部屋を物色されました。だなんて…
「そっかなぁ。だってワタシだよ?エメトセルクならそんなことしないと思ってるだろうけど…」
こいつはそういうヤツだった。自分のことを平気で蔑んで話す。
「もっと慎みを持った方がいいぞ?」
ヒュトロダエウスはいつになく真面目な顔で言い放つ。
「キミたち以外にはいつだって遠慮してるさ!」
出来れば私たちにももう少し遠慮という心を持ってほしいと思うことは間違っちゃいないと思った。
「キミたちは…トクベツじゃない?」
その気持ちはよくわかったからこそヒュトロダエウスには強く言えないのだ。
「で、キミも…読んでみる?」
先程の言葉を反芻する。
『本当に見られて困るようなものはこんな分かりやすい所には置かないよ』
「もしかしたらアゼムは読んで欲しくて置いてたのかもね。」
その言葉が決め手だった。
ヒュトロダエウスから手渡された日記帳を捲る。
もしもマズイような内容の場合は即刻読むのを止めればいい。
どこか逃げ道を作りつつ読み進め始めた。
◯月△日(晴天)
今日はエメトセルクと翌日の議会提出の論文を作った。
纏めるのが苦手だから時間が掛かっちゃったけどエメトセルクがいつも仕上がるのを待っててくれるから嬉しい。
◯月□日(曇り)
議会でラハブレアと言い争いになってしまった。頭が硬すぎる。
エメトセルクが間に入ってくれた。いつも感謝しかない。
今度何かプレゼントを準備しよう。
◯月☆日(小雨)
エメトセルクがフィールドワークだからヒュトロダエウスを捕まえてエメトセルクへの日頃の感謝を込めてプレゼント探しの旅に出た。良いものが見つかった。喜んでもらえたら嬉しい。
◯月◇日(晴れ)
エメトセルクにプレゼントを渡した。照れて可愛かった。
もっと気持ちが伝わればいいのに…
人を好きになるとこんなにももどかしいとは思わなかった。
日記帳を一旦閉じた。
ざっと見た限りではこれを私が読んでいいものなのか疑問符がつく。
「アゼムも可愛いね。キミとのことばっかりだ。」
そうだ。もっと他にもあるだろうに…内容は全て私のことだった。
『もっと気持ちが伝わればいいのに…』
その思いがヒュトロダエウスに伝わりこの日記帳を探し当てた。
「お前はこれを全部読んだのか?」
ヒュトロダエウスは首を横に振った。
「これはワタシではなくキミが読むべきものだと思うから。折角の休日だ。ゆっくり一人で読むといいよ。」
そう言ってヒュトロダエウスは大人しく帰っていった。
ヒュトロダエウスが何を言いたかったのかわからない。
でも本当に私に読んでほしいのであれば…先程のページから再び読み始める。
□月◯日(晴れ)
明日からまた旅に出なくてはいけなくなった。
本当はもう少し一緒に過ごせたはずなのに。エメトセルクはアゼムの座とはそういうものだと言うけれど…
私にだって人並みの感情はある。
淋しいんだ…エメトセルクと離れることが。
□月□日(大雨)
稀に見る土砂降りの雨に1日だけ出発をずらした。
エメトセルクを独占してしまった。
いつだってその腕に包まれていたい。
□月△日(晴れ)
次に帰るまでこの日記を置いていく。
もしこれをエメトセルクが見つけたら…
会いに来てくれないかな…くれるわけないか。
今回は長旅だ。君の温もりが消えてしまったら…
喚んでも…いいかな…
日記帳をパタンと閉じた。意図的に置かれた日記帳。
やたらと重いため息が出る。
いつだって元気よく飛び出すアゼムは私なんかが捕らえていいはずもなく大人しく収まるような奴でもない。
それが勝手な思い込みだとしたら…
アゼムの居場所を思い出す。アイツはいつだって旅先を告げていく。もしかしたら…来てほしいがために告げていたのかもしれない。
そんなことにも今更ながら気付く。
幸いなことに連休だ。出かけるにも丁度いい。
アゼムの旅先付近にある街にまずは向かおう。
そうと決めればさっさと支度を整えて、目的地へと転移した。
街はそれなりに大きく人々の憩いの場も沢山あるようだ。
ここに来たのはいつ振りだろうか。
あの時も確かアゼムに喚ばれたんだ。
ふと視線を感じ後ろを振り向くと少し遠めではあったが探さねばと思っていた人物がいた。
手招きをされ、それに従いついていく。
人の姿がまばらになりそこで声を掛けると抱きついてくる。
「…ホンモノだ…」
「…私のニセモノがいるだなんて初耳だがな。」
クスクスっと笑っている。
アゼムの背に腕を回し優しく抱きしめるとほのかに花の香りがした。
「まだ…帰れそうになくて…でも…まさか君から来てくれるだなんて!」
日記の存在がなければ来ることはなかっただろう。
「お前に…来てほしいと言われたら来るしかないだろう?」
髪の毛に触れゆっくりと撫でる。
「………あぁ、見つけちゃった?」
「…ヒュトロダエウスがな。」
「そっかぁ…彼なら仕方ないか。」
少し残念そうなトーンに若干の申し訳無さが募る。
「だが……最後まで読んだのは私だ。」
それこそ驚いたように慌てて顔を上げた。
「君が……読んだの?」
「読んでほしかったんだろ?」
少し頬を赤らめコクリと頷いた。
「さぁて…私は今日、明日と休みでな…アゼム様にエスコートを頼みたいのだが…」
顔一面に喜びが溢れ人目をはばからず唇が重なり合った。
宿した温もりは暫く残るだろう。
薄れたときにはまた会いにくればいい。
それが許される間柄なのだから。