美味しく美味しくいただきます
Presenter:作者の回答を見る!(7/28 15時~)
Summary:エメアゼ♀
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公務の合間の、ランチの席。
三人だけの食事に限っては、作法や嗜みよりも楽しみが優先される。それは、あの生真面目なエメトセルクの数少ない例外の一つだった。
だから、いただきます、の挨拶をしたら、各自、口をつける前に自分の料理を取り分けて、二人のお皿の端に盛り付ける。
そんな『幸せのお裾分け』は、まだ三人が、揃いの白い仮面を着けていた頃から長く続く習慣だった。
……が、
「ッフフ……!」
もはや、こうなってしまっては、ねぇ?
「どうした、ヒュトロダエウス」
何の前触れもなく笑い出したヒュトロダエウスに、向いに座るエメトセルクが、仮面の内側の眉間の皺を深くした。
その手は、アゼムから受け取ったばかりのアラビアータを宙に浮かせたままになっている。
対して、彼の隣に座るアゼムは、エメトセルクから皿ごと奪い取ったラザニアを頬張って、きらきらと目を輝かせていた。
「うん! 幸せぇ……!」
思わず頬を溶かしたアゼムの声で、エメトセルクの口元が微かに緩んだ。きっと親友以外には分からないほどに、ほんの僅かにではあったけれど。
「何だ、アゼム。そっちの方がよければくれてやるぞ。私は別にどちらでも構わない」
「待って待って! さすがエメトセルクの見つけたお店だけある! これは、悩むなぁ……きみは、どっちの方が好きだった?」
「見ての通りだ。まだ一口も食べていない」
「もう! 冷めちゃうって! 早くそっちも食べてみて、ね?」
「はいはいはい!」
ぱんぱん、と二度ほど手を叩く音が響いた。
二人の動きがぴたりと止まり、視線がヒュトロダエウスの方を向く。
「ちょっと、二人とも! ワタシのこと、忘れないでほしいんだけど」
「ああ、話が途中だったな。お前、さっきから何がそんなに可笑しいんだ? ヒュトロダエウス」
エメトセルクがようやくテーブルにアラビアータを置いて、フォークを手にした。
それを上目遣いに見つめるヒュトロダエウスが、くすんくすんともの悲しい仕草で、両手の人差し指を合わせる。
こうして改めて見ると、自分の皿の真ん中でこんもりと艶めくリゾットの、その隅に盛られたアラビアータとラザニアの小さいこと小さいこと。
「こっちは、いつもの一口、幸せのお裾分け」
「はあ」
「なのにキミたちは、ワタシをそっちのけて、『幸せの譲り合い』なんだもの」
『……あ』
二人が顔を見合わせる。一つ瞬きをした後に、ふい、とそっぽを向くのもぴたりと同時だった。
その頬がみるみる紅く染まっていったのは、この熟年の親友達がまだまだ恋人としては初々しい証拠に他ならない。
いやぁ、まさかこれが無意識の沙汰とは! しかもあの無愛想で生まれた時から渋い顔をしていたようなエメトセルクが、こうも面白いようにころころと表情を変えてしまって!
「フフ! 本当にキミたち、アツアツなんだから。ワタシもちょっと羨ましくなっちゃうよ……。おや? 照れてないで。冷めちゃう前に食べなくちゃもったいないよ、エメトセルク」
「馬鹿を言うな! 誰が照れてなど……! くだらない言いがかりに呆れているだけだ! 大体な、そもそもこうなったのは、」
「ねえねえエメトセルク、私、イイコト閃いた! 半分ずつ食べちゃおう!」
「だってさ。早く食べてあげないと、アゼムの分が冷めちゃうんじゃないかな?」
「そう思うならお前は私に話しかけるな! いいか、お前も早く食べろよ。どこぞの局長殿を早く執務室に帰してやらないと、また書記長の泣き言を聞かされるはめになるんだ」
二人の関係が変われば、当たり前のように、三人の関係も変わる。けれど、……フフフ、この方がより愉快なのだから、むしろ大歓迎だ!
いいじゃない、とっても素敵だよ。きっとこれがワタシたち三人の、より善い食卓の囲み方!